手術にて得られたヒト心房組織を用いてANPの病態生理学的意義、その生成、分泌過程に関する検討を行った。その結果、僧帽弁膜疾患などの慢性的心負荷を有する病態では心房内ANP含量の増加γ、β-hANP特に後者の増加が認められた。心房中β-hANPおよびγ-hANPを高速ゲル濾過にて精製し、血漿と共に37℃で一定時間インキュベートレ、分子量の変化を、高速ゲル濾過および逆相高速液体クロマトグラフィーにて検討した。その結果、γ-hANP、β-hANPいずれもα-hANPに交換される事が明らかにされた。これらの事から、負荷を有する心房では、γ、β-ANP産生増加がおき、それらが血中に分泌されてα-hANPに転換されて作用を発現することが示唆されたが、β-hANPのままで作用を発現する可能性も否定できなかった。 ラットにおいて、モノクロタリンを投与し、実験的肺動脈高血圧症を作製、心房、心室組織中ANP含量と共に、免疫電顕の手技を用いてANP顆粒の変化を観察した。その結果、実験的肺動脈高血圧ラットでは、右房組織中ANP含量の増加と共に、右心室組織中ANP含量も増加を示した。血中ANPも増加しており、それ故、心房、心室由来のANPが共に血中ANPに寄与すると考えられた。しかし、免疫電顕では心房内顆粒が増加していたのに対して、心室内ANP顆粒は不変で、心房と心室ではANPの生成、分泌過程に差のある事が示唆された。 以上の事から、心房に負荷が加わるとANPの産生、分泌が亢進し血中に分泌されて腎、血管系に作用し、これらでの作用を介して心臓への負荷が軽減されることが示唆された。今後、心房組織での蛋白レベルでの変化に加えて、mRNAレベルでの検討を行なう予定である。
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