心房性Na利尿ペプチド (ANP) には3種の存在様式即ちプロホルモンであるγ-hANP、分泌型であるα-hANPおよびその逆平行2量体であるβ-hANPがあるが、その病態生理学的意義を明らかにする為、手術にて得られたヒ心房組織および血中ANPの含量、その存在様式をラジオイムノアッセイと高速液体クロマトグラフィーにて検討した。その結果、僧帽弁膜疾患の心房組織中ANP含量は非心疾患、他の心疾患に比べて高値を示した。心房組織中ANPの存在様式を検討した所、その増加したANPは主にβ-hANPであり、他の疾患でγ-hANPが主要因子であるのと対照的であった。心房組織中ANP含量は肺動脈圧、心房内圧と正の相関を示した。総ANP含量とβ-hANP含量は正の相関を示した事から、β-hANPもこれら血行動態と正の相関を示した。次に血中ANPについても同様の検討を加えた。血中ANPは僧帽弁膜疾患、他の心疾患、腎疾患で高値を示したが、正常者血中ANPが主にα-hANPであったのに対して、心疾患特に僧帽弁膜疾患ではβ-hANPの増加が認められ、心房組織内での変化と対応していた。この血中β-hANPが心臓由来か否かを明らかにする為、心房ペーシング前後で血中ANPの存在様式を検討した結果、ペーシング後、血中β-hANPの増加が認められた。又、一部の例ではγ-hANPに相当する大分子型ANPも認められた。組織中γ-hANP、β-hANP分画と血漿をインキュベートするといずれもα-hANPに変換された。以上の事から、ヒト心臓は、慢性的な血行動態的負荷に対してANP産生の増加およびβ-hANPへの存在様式の変化にて対応し、この事は末梢血にもある程度反映される事が示された。β-hANPは持続の長い作用を有しており、心疾患における生体の代償反応である事が示唆された。
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