新生児ラットの心房と心室をコラゲナーゼを用いて遊離心筋細胞を作製し、心筋細胞の初代培養系での心房性Na利尿ペプチト(ANP)の合成および分泌機構を検討した。心房細胞でのANPの合成および分泌はデキサメサゾン、テストステロン、甲状腺ホルモンによって用量依存性に促進された。一方、心室細胞の細胞内ANP含量は心房細胞より少なかったが、デキサメサゾン、テストステロン、甲状腺ホルモンによりANPの合成および分泌は心房細胞と同様に促進された。特に心室細胞でのデキサメサゾンに対する反応性は心房細胞よりも大であった。異常のとからANPの生合成機序には糖質ステロイド、男性ホルモン、甲状腺ホルモン、といった複数の体液性因子の支配下にあり、特に心室では糖質ステロイドに対する感受性が高いという組織特異性の相違が示唆された。また新生児ラットでは心房、心室ともにANPの生合成能を有するが、心室では合成されると直ちに分泌されるという分泌様式で心房とは異なっている。心房細胞でのANP分泌はα_1受容体およびムスカリン性コリン受容体作働薬によって促進され、またCaイオノフォアやCキナーゼ活性化物質によっても促進された。特に両者の共存下てはANP分泌促進の相乗効果が認められた。以上のことから心房でのANP分泌機構に神経因子が関与し、受容体活性化以后、共通の細胞内情報伝達系、すなわちイノシトール3燐酸とジアセルグリセロールがセカンドメッセンジャーとしてそれぞれ細胞内Ca遊出とCキナーゼの活性化を引き起こしてANPの分泌が起こるものと考えられる。また最近発見された。内皮細胞由来の血管収縮性ペプチドのエンドセリンは電位依存性Ca経路アゴニストと同様にANP分泌を促進した。この事実はエンドセリンが内因性アゴニストとしてCa流入を介してANP分泌機構に関与している可能性が示唆される。
|