血管壁内皮細胞(ECs)上で生じる血栓の進展と修飾に関しては、血栓溶解反応系(線溶系)が重要な役割を果している。線溶系因子である組織型プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)と、プラスミノゲンは、ECs或はその細胞間物質に結合濃縮されて、ここでアラスミンが生成されることが報告されていた。ECs上で進展する凝固反応においては、反応が凝固の阻害因子によりECs上で制御されていることが明らかにされているが、ECs上で生じるフラスミンはその阻害因子であるα_2プラスミンインヒビタには阻害されない様にまもられているとされている。一方ECs由来t-PAと複合体を形成し、その活性を阻害する即時的インヒビタ(PAI)が、ECsで産生され、これが血管内血栓溶解の制御に関わっている事が予測されていた。しかしECs上の線溶反応がこのPAIにより制御されているか否かは不明であった。ところでECs培養上清中では、殆どのPAIはt-PA阻害活性を示さず、尿素などの変性剤による処理を受けて初めて活性を発現する散在型PAIとして存在する事が知られていた。然るに坂田は、実験的にconfluientECsへt-PAを加えて、インキュベーションすると、上清中に大量のt-PA/PAI複合体が観察されることを発見した。そこでECsの培養系で、例えば特殊な膜を用いて、t-PAを直接は細胞に接触させない様に工夫して複合体観察とするなどの方法でこのことを解析した結果、PAIはECs上或は細胞間物質の未知の結合蛋白質と結合して活性型で存在し、ECs上で進行する線溶反応を制御していることを世界で初めて明らかにした。更にこの結合蛋白質の一つがvitronectionである可能性を示唆する結果が得られたが、問題点も多く、PAIの分泌形態、他の結合蛋白質の同定など更に解析中である。
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