研究概要 |
腎移植患者では感染の合併や肝機能障害に際し免疫抑制剤の中止を余儀なくされることがあるが, 長期間生着した移植腎が直ちに拒絶されることはなく, ドナーに対する免疫学的不応答性が成立していることが予想される. この種の不応答性に関する研究は, 従来凍結保存したリンパ球を用いて行われてきたが, この方法では凍結, 解凍に際しリンパ球の機能が障害され, すべての反応が低くなる可能性があり, 結果の信頼性が劣る. 本研究では親子間で腎移植を行った症例のうちレシピエントがHLAアイデンティカルの兄弟を有する組み合わせを選び, この両者の新鮮リンパ球がドナーならびに第三者のリンパ球に対して示す免疫学的反応性を比較検討した. その結果cell-mediated lympholysis(CML)においてレシピエントリンパ球は例外なくドナーリンパ球特異的な反応の低下を示した. また半数に第三者のリンパ球に対しても非特異的反応低下を示すものがあった. レシピエント末梢血リンパ球のもつNK活性ならびにADCC活性についてはHLAアイデンティカルの兄弟との間で有意の反応の差は認められなかったが, 明らかに低下を示す症例もあった. ドナーならびに第三者リンパ球を刺激細胞としてMLCを行った後ではADCC活性にのみ有意なaugmentationの低下が認められたがNK活性は差がなかった. レシピエント血清はドナーならびに第三者のリンパ球を刺激細胞としたM-LCに添加しても有意な反応性の低下をもたらさなかった. 以上, 腎移植長期生着例における免疫学的不応答性はドナー特異的な細胞性免疫能の低下を主体とすることが明らかとなった.
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