成人T細胞白血病ウィルス(HTLV-I)陽性白血病株ATL-2の培養上清にはインターロイキンー2レセプターを誘導し、細胞の酸化還元に深く関与する物質ATL-derived Factor(ADF)の存在が知られているが、同じ培養上清中に、コラゲナーゼ灌流法にて分離したラット肝細胞の上皮増殖因子(EGF)依存性増殖を抑制する蛋白(HGIと仮称)を認めた。その抑制作用は細胞障害的で、^3Hーチミジンの取り込みや細胞数の変化で確認された。またこの作用は濃度依存性で、EGFとは競合しなかった。^<125>I-EGFを用いた結合試験では、この培養上清はEGFの肝細胞への結合を抑制せず、親和性にも影響を与えないことから、レセプター結合以降の段階で抑制作用を示していると考えられた。ヒト肝癌細胞株PLC/PRF/5の自然増殖、並びにEGFにより促進される増殖は、HGIによって阻害されなかった。他のT細胞白血病株の培養上清中にもHGI活性がみられたが、その活性はHTLV-Iウイルスの感染の有無とは関連しなかった。ATL-2培養上清を濃縮し、セファクリルS200カラムによるゲル濾過を行うと、分子量3万前後の所に抑制活性が認められ、次にイオン交換カラムにて粗精製した所、ADFとも異なるピークを認めた。サイトカインの中では、インターロイキン-Iα、インターロイキンー2、インターフェロンーγ、腫瘍壊死因子(TNF)は検索した濃度の範囲では肝細胞の増殖に影響を与えなかったが、形質転換増殖因子(TGF)ーβは強い増殖抑制作用を示した。ノザンブロット分析にてATL-2の溶解質にはTGF-βのメッセンジャーRNAを認め、その培養上清を酸処理するとTGF-βの生物活性を認めるが、HGI活性は酸処理をしなくても出現することから、両者は異なる蛋白ではないかと考えた。
|