抗癌剤を直接リンパ管内へ注入する治療法の有用性とそれに適した薬剤の条件を検討するため、健常家兎を用いて行った実験(62年度)で、本法には、高分子量の抗癌剤が適している事を示唆する結果がえられた。これをふまえて、63年度は、担癌動物を用いて検討した。実験動物として、家兎の可移植性腫瘍であるVX_2癌の細胞浮遊液(10^7個/ml)をハンクス液を用いて作成し、その0.2〜0.3ccを下腹壁から鼠経部に走るリンパ管内へ注入して、腸骨リンパ節内に癌転移巣を作成した担癌家兎を使用した。抗癌剤として、濃度依存型で、高分子量薬剤のNeocarzinostatin(NCS)を、静注(I群)、下腹壁動静脈に沿うリンパ管内へ注入(II群)し、その後の組織内濃度、(肺、大腸、腎、肝、転移リンパ節)と、血中内濃度を経時的(60、120、180、240、300分)に測定した。そして、投与経路について比較検討すると同時に、NCSすなわち、高分子量抗癌剤のリンパ節内停留性やその有効性について検討した。 その結果、(1)静注群では、転移リンパ節内濃度は、60分から上昇し、120分でピークに達するが、その値は、他の臓器の濃度とほとんど差が無かった。(2)リンパ管内注入群では注入直後から転移リンパ節のみが他臓器に比較して高値を示し、120分では半減し、その後は漸減する傾向を示したが、その間他臓器の濃度よりも高めの値を示した。 転移で侵されているリンパ節内に抗癌剤が流入するかという点に関しては、従来から疑問視されているが、転移リンパ節への移行性は、リンパ管注入、静注ともに、正常リンパ節(62年結果)に比較すると、低いが、リンパ管注入の場合、静注に比較して、転移の程度に左右される傾向が少ないと思われた。さらに、濃度と転移の程度との関係を組織学的に比較検討する必要があるが、リンパ管内注入療法の有用性が示唆されたと考える。
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