抗癌剤を直接リンパ管内へ注入する治療法の有用性と、それに適した薬剤の条件を検討するため、健常家兎(62年度実験)と、VX_2癌細胞浮遊液によって腸骨リンパ節内に癌転移を作成した家兎(63年度実験)を用いて、その鼠径リンパ管内に抗癌剤として、分子量、殺細胞作用に違いのあるFutraful(FT)あるいは、Neocarzinostatin(NCS)を注入した。注入後、血中と組織内濃度を経時的に測定し、静注群の場合と比較検討した。その結果、次の事柄が示唆された。(1)高分子量の制癌剤は、リンパ管外漏出の傾向がなく、かつ、リンハ節内停留の傾向が強いため、低分子量制癌剤よりもリンパ管内注入に適していると思われた。(2)転移リンパ節への抗癌剤の移行性は、リンパ管内注入、静注群とともに、正常リンパ節(62年結果)に比較すると、低いが、リンパ管内注入の場合は、静注群に比較して、従来いわれている様に、移行性が、癌の転移の程度に左右される傾向が少ないと思われた。(3)リンパ管内注入の方が、静注群の場合よりも、注入直後から転移リンパ節のみが他臓器に比較して、高値を示し、急激に半減、その後漸減するも、その間、他臓器よりも高めの値を示した。 以上の事より、リンパ管内注入療法が、臨床における投与法等の問題点は別にして、癌の転移リンパ節に対して有効であると同時に他臓器に与える副作用の軽減という面からも有利であると思われた。しかし、さらに、抗癌剤の癌転移リンパ節への移行性いについては、薬剤の濃度の面だけでなく、転移の程度との関係を組織学的に比較検討する必要があると思われる。
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