研究概要 |
家族性大腸ポリポージスは、常染色体優性遺伝性の家族性疾患で、高率に大腸癌が発生することが知られている。また、癌化の過程を研究するうえで貴重な疾患とも言える。我々は、ヒト正常大腸粘膜には存在しなかったDNA合成系酵素チミジン・キナーゼ(TK)の特異なアイソザイムが、大腸癌細胞では顕著に誘導されていることを報告した。また,大腸癌患者で,臨床病期ステージVおよび再発症例、殊に遠隔転移を伴う症例において、血中TK活性が高値を示すことも報告した。以上の結果、ヒト大腸癌細胞から分離精製した特異なTKアイソザイムの特異抗体作製の必要性が生じた。本研究補助金の助成により、ヒト大腸癌細胞から分離精製した。この特異なTKアイソザイムのモノクローナル抗体をハイブリドーマ法により作製することを始めた。このTKアイソザイム抗体は,他の大腸癌TKアイソザイム、乳癌および甲状腺癌などのTKアイソザイムとは交叉反応を示さず、ヒト大腸癌からの特異TKアイソザイムとのみ交叉反応を示した。しかしながら、後続の実験系からの抗体は力価が小さく、抗体作製は仲々進展が認められなかった。そこで現在、ヒト大腸癌細胞から分離精製したTKアイソザイムを抗原として,モノクローナル、ポリクローナルの両面で、新しく抗体作製を継続している。一方、臨床面では、60例の大腸癌、15例の家族性大腸ポリポージスについて検討したところ、総TK活性は、大腸癌で3倍、家族性ポリポージス症例のポリープで1.8倍と正常大腸粘膜のそれより有意に増加していた。すなわち、家族性ポリポージスのポリープでは、総TK活性高値のものが存在し(33%)、特異なTKアイソザイムの認められるものが多かった(53%)。このことより益々、特異なTKアイソザイム抗体作製必要性の意義が増大し、高力価抗体を目指して研究続行中である。
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