研究概要 |
Wister系雄性ラットに四塩化炭素0.4ml/kgを2回/週, 3ケ月間皮下注し, 実験的肝硬変を作成した. 正常肝, 硬変肝ラットを用い(実験1)Wiggers氏法にて平均血圧30mmHgの出血性ショックモデルを作成し, 120分後脱血全量と還血した. (実験2)酸素濃度10%の低酸素血症モデルを作成し, 60分後に大気中に戻した. 経時的に肝エネルギーチャージ(EC), 肝シトコンドリア酸化還元状態(RX), 肝ミトコンドリア酸化的燐酸化能(PR), 乳酸濃度を測定した. 出血性ショックでは正常群, 肝硬変群共に, ショック導入後, EC, RX, PRは著明に低下し, 乳酸値の上昇を認めた. 還血後, 正常群では直ちにEC, RX, PRは前値に回復し, 120分後RX, PRは更に上昇し肝ミトコンドリア機能の亢進を認め, ECは前値に維持され, 乳酸は正常に復した. 24時間後の生存率は90%であった. 肝硬変群では, 還血後ECは前値に, 回復したが, RX, PRの回復は遅延し, 120分後RX, PRは低下し肝ミトコンドリア機能の低下を認め, ECは減少し, 乳酸値も正常には復しなかった. 24時間後の生存率は10%であった. 低酸素血症モデルにおいては, 低酸素血症60分後RXは正常群, 肝硬変群共に低下し, 肝硬変群の低下が有意であった. PRは正常群で有意に上昇したが, 肝硬変群では変化を認めなかった. 大気中に戻すと, 5分後正常群では前値の17.7%にPRは15.3%に上昇し, 肝ミトコンドリア機能の亢進を認めるも, 肝硬変群ではRX, PRは変化を認めず, 肝ミトコンドリア機能は亢進しなかった. 以上の結果より, 肝硬変症例における外科手術後の出血や低酸素血症に起因する多臓器不全の病態は, 肝ミトコンドリア機能亢進の欠如や, 回復の遅延が重要であり, 現在我々は, 肝ミトコンドリア酸化還元状態を反映する血中ケトン体比を測定し肝ミトコンドリア機能を的確に把握することにより, 外科術後管理の向上に努めている.
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