担癌生体の自己の血漿による抗腫瘍現象(例えばプロテインA潅流血漿を生体に戻したとき観察される)について以下の研究を行った。 1.臨床研究:(イ)高張塩で処理した自己血漿(1回あたり約200ml、0.5MKClまたは1.5MNaClにて室温30分処理、原則2回/週)の投与を進行悪性腫瘍患者21例に試みた。重篤な副作用は認められなかった。肉眼的観察では急性の腫瘍壊死や癌性腫瘍の縮小を(3/4)、腫瘍マーカーの追跡ではその低下を見た(10/12)。組織学的検索では何らかの変化、例えば腫瘍細胞の膨化、変性壊死、間質の増生と腫瘍細胞数の減少などを見た(7/9)。腫瘍の縮小は皮膚に潰瘍を形成するか、皮下に触知する小腫瘤を除き、得られなかった。13例に多少とも全身状態の改善や病態の進行の遅延が認められたと考えるが、客観的な指標には乏しい。現在3名が試みの開始1年以上ないしは略々1年を経過して在命中で、うち2名は社会復帰を果している。(ロ)米国イムレ社製プロテインAカラムにて自己血漿潅流を4例に施行した。重篤な副作用は認められなかった。癌性潰瘍の乾燥や腫瘍細胞の変性、線維化の進行などを認めたが、かかる抗腫瘍現象をいかに臨床上の効果として得るか課題を残している。 実験的研究:Vx2腫瘍移植家兎を用いて以下を行った。(イ)高張塩処理による高腫瘍現象の確認とプロテインA潅流法との比較。いづれの処理法でも相違点の明らかではない急性の抗腫瘍反応が観察された。(ロ)分画血清投与による検討。3.5%PEG可沈澱物を除去した上清を塩処理投与しても抗腫瘍現象が確認された。このことは自己の血漿による抗腫瘍現象を考えるとき、臨床に関連する問題としては血漿処理にプロテインAなどの生物製剤は必要でないことを改めて示すとともに、より基礎的な課題として担癌状態にあるとの特殊な免疫生理状態の解明にも重要な示唆を与えるものと考える。
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