これまでの検討の結果、尿中に見出されるFNは疾患によって分子量が異なり、胃癌や結腸癌では分子量約100Kの蛋白が、肝癌では100Kと68Kの2種の蛋白がFNと免疫交差性を示し、正常血漿FNの分子量230K(還元時)とは大きさが異なり、また良性疾患(胆石、潰瘍性大腸炎)にみられた尿中FNの分子量約200Kと比べても大きく異なっており、癌疾患尿中FNは破壊、断片化されたものであることが判明した。(62年度)63年度は癌疾患尿中フィブロネクチンを精製し、FNの大きな蛋白のどの部分が切断され尿中に発現しているのかについて血漿FNの各ドメインに対して特異に反応する抗FNモノクローナル抗体を用いてWestern-Blotting法により検討をおこなった。FNの構造はほとんど同じ大きさのA鎖(分子量235K)とB鎖(分子量230K)がC末端近くでS-S結合した二量体で構成されている。この大きな分子をいくつかの部分(ドメイン)に分け、それぞれの構造と機能が明らかになっており、N末端から順にドメイン構造をI〜VIIまで分けられている。これらの各ドメインに対して特異的に反応する4種類のモノクローナル抗体(ドメインI、III、IV、VIをそれぞれ認識する抗体)を用いて、癌疾患尿中FNのドメイン構造について検討した。その結果、胃癌、大腸癌にみられた分子量100Kのフラグメントは細胞接着活性を有するドメインIVを認識するモノクローナル抗体とのみ反応し、他のドメインI、III、VIを認識するモノクローナル抗体とは反応しなかった。肝癌では、この100Kのフラグメントのほか、もう1つの68KのドメインI、IIIを含むフラグメントが同定された。これら消化器癌における尿中FNは細胞接着ドメインを中心とした部分が切断され、尿中に発現していた。このことは癌が増殖、転移をきたすことを考える上で非常に興味深い。今後さらに検討を加え、癌の診断法の確立を行いたい。
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