Fibronectin (フィブロネクチン:FN) は生体内のあらゆる組織や基底膜に存在し、細胞の正常な行動に対して重要な働きをしている。このことは異常な行動を示す癌細胞の研究からわかってきた。それは細胞が癌化すると細胞表面にあった。FNが消失しその結果、細胞接着生の消失、細胞骨格の崩壊などが起こり癌細胞の無秩序な振る舞いが生じるのではないかと考えられている。そしてFNはこのような癌細胞の行動を制御する糖蛋白として研究されてきた。我々はFNと癌との関連に注目し、癌が増殖、転移を起こす時、癌周囲のFNが破壊されその分解産物が尿中ち発現するのではないがと考え、尿中FNの測定法を開発しそれを用いて測定したところ健常者ではほとんど認められなかったが、癌疾患例では癌の進行と共に尿中FN量の増加が認められた。特に転移例や再発例では有意に高く癌の診断、予後追跡の指標として意義のあるものと考えられた。そこで担癌患者尿中FNを精製し血漿FNや良性疾患尿中FNと比較検討したところ胃癌、結腸癌では分子量約100Kのフラグメントで、肝癌では分子量100Kと68Kの2種類のフラグメントが認められた。血漿FNの分子量は240K (還元時) で良性疾患の分子量は約200Kであり、これらに比べ癌疾患尿中に排泄されたFNは100Kと断片化されていた。FNの蛋白分子はいくつかのドメインに分けられ (ドメインI〜IIIまで) それぞれの構造と機能が明らかになっている。これらの各ドメインを特異に認識するモノクローナル抗体を用いて癌疾患尿中FNのドメイン構造について検討したところ100Kのフラグメントは細胞接着部位であるドメインIVを中心としたフラグメントであった。細胞を固定し組織構造を保持する役割を担うFNの中の細胞接着部位であるドメインIVのみが尿中に多量に発現しているということは癌の増殖、転移を考えるうえで非常に興味深い。
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