太い動脈用人工血管はほぼ完成したと一般に思われている。しかし実際にはいくつかの問題点をもっている。例えば、植え込んだ人工血管が閉塞しないよう、あるいは人工血管壁に血栓が形成されて、それが流され、末梢への塞栓症を引き起こさないようにと抗凝固療法を併用する人工血管植え込み術の時は、人工血管からの出血を防止するため、極端に低有孔性の人工血管を用いる。しかしこのような低有孔性人工血管はテント布の如く硬く、取扱いが不便で、石灰化を来した病的宿主血管への縫い合せの場合苦労しているのみならず、植え込み後人工血管内面に生じる新生内膜も退行性変性、脱落が生じやすかった。この度の研究ではこの不便さを解消するため、従来の太さの1/100程度の極めて細い超極細ポリエステル繊維で作られた布を用いて低有孔性人工血管を作成し動物実験を行って、その特性を明らかにするとともに、新生血管壁を形成する平滑筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞等の挙動を観察し治癒促進効果をもつ大動脈用低有孔性柔軟壁人工血管開発のための基礎的資料を得た。作成した人工血管は低有孔性であっても非常にしなやかで、生体の自然の血管壁程度の軟らかさがあった。従って、現在臨床で用いられている低有孔性人工血管に比べ、扱い易く、手術も容易であった。現在本研究は二年間経過し、この間に観察した実験動物試料では目標とした高治癒性が得られていることが明らかとなった。すなわち、従来のポリエステル繊維(断面直径20ミクロン)に比べて極めて細いポリエステル繊維上には、人工血管の新生血管壁を構成する主要な細胞、すなわち平滑筋細胞、線維芽細胞等が活発に侵入、増殖し、さらにその表層を内皮細胞が覆って、急速に新生血管壁を形成してゆく所見が得られた。このことは、繊維を細くすることによって人工血管をしなやかにして、扱いやすくすると同時に、新生血管壁の治癒を促進していることを示していた。
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