研究概要 |
我々はこれまで再潅流時不整脈(RA)の発生機序を明らかにする目的で, ラットのin vivoおよびin vitroモデルなどを用い研究を重ねてきた. これらの結果からRA発生にはCa^<++>, K^+, Na^+などのイオンの変化が関与していると推察された. この仮説を立証するため今回は細胞内へのCa^<++>イオン流入とRAとの関係についての検討を行った. ラット潅流心再潅流不整脈モデルを用い, Ca拮抗薬であるdiltiazem(D)とその光学的異性体isomer(I)(Ca channel blockerとしての作用はなく, Na channel blockerとしてはDと同程度の作用をもつ)の抗不整脈効果を比較した. その結果, 低濃度のDは心室頻脈(VT)の発生率を100%から17%(P<0.05)へ, 心室細動(VF)の発生率を60%から0%(P<0.05)へと低下させた. 一方同濃度のIではVT, VFの発生率は各々83%, 67%とRAに対して無効であった. ところが高濃度投与ではD群だけでなくI群においてもVT, VFの発生は1例も認められなかった. 冠潅流量と心拍数の変化薬剤の抗不整脈効果とは無関係であり, また虚血心筋中のATP, CP, Lactate含量は全群において有意な差を認めなかった. 以上よりdiltiazemのRA抑制効果は, 虚血に対する保護作用よりはむしろ細胞内Ca^<++>流入抑制の直接作用によるものであり, さらに高濃度isomerが不整脈発生率を低下させた事実より, Na^+流入抑制作用も関与していると考えられた. このようにCa^<++>やNa^+イオンなどによる電気生理学的環境の変化が再潅流時における不整脈発現性に重要な役割を果していることが確認された. 細胞外K^+濃度の変化は虚血や再潅流にともなうこのような心筋の電気的現象の変化を表わす最も適切な指標の1つであり, これを直接連続的に推定すべく, K^+イオン電極を応用した測定装置(多現象メモリアルオシロスコープ, 4チャンネル記録装置を含む)を開発し, ラット潅流心モデルに併用した. 現在このシステムの〓当性を検討するために基礎実験を遂行している段階である.
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