研究概要 |
研究費の交付を受けて後, 昭和62年7月8日より動物実験を開始した. まず基礎実験として, 犬3頭を用いて両肺一括自家肺移植術の解剖学的可能性の検討ならびに移植手段の完成のための予備実験を行い, 本術式が解剖学的および手技的に可能であることを確認した後昭和62年9月2日より人工心肺による体外循環下癌移植実験を開始し, 今日に及んでいる. 1回の実験に用いる実験犬は2頭で, うち1頭は人工心肺の充填用血液を脱血するために利用し, 他の1頭を移植実験に用いた. 実際の移植手技ならびに人工心肺下体外循環の方法は当初から計画した通りで, 実験を重ねるに従い, 動脈カニュレーションの方法, 心筋保護法, 肺動脈等からの空気除去の方法に多少の工夫を追加しわずかの変更を行った. 両肺一括自家移植実験は昭和62年9月2日より昭和63年3月30日までに計16回行い, そのうち3頭は両肺の従縦隔からの剥離操作中に血圧の低下を来たし, 回復不能で体外循環の装置に到る前に実験を中止し, 4頭は再移植後に体外循環を停止する以前に心停止を来たして実験を終了, 4頭は再移植後体外循環を停止した直後に血圧低下, 徐脈, 心室細動となって死亡, 4頭は体外循環停止後1時間〜1時間30分後に血圧低下, 心停止, 1頭は体外循環停止後37分で死亡していた. 以上の如く, 再移植後体外循環からの離脱不能および体外循環からの離脱後に長時間の生存が得られなかった原因としては, 主に体外循環そのものに伴う手技上ならびに全身管理上の不備が考えられ, 両肺一括自家移植術そのものが死亡の原因となったものはなかった. 実験も回数を重ねるにつれて体外循環の技術に多くの向上が見られるようになっており, 今後さらに長時間の移植後生存が期待できるものと思われる.
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