研究概要 |
昭和62,63年の科学研究費補助を得て計31頭の成犬を用いて両肺一括の自家移植実験を行った。方法は全身麻酔下に開胸し、左右両脇と左右縦隔組織、大動脈等との間を十分に剥離した後、人工心肺による体外循環下に肺動脈、左房壁、気管の順に切離し、左右両肺を肺動脈、左房壁、気管によって各々連結した状態のままで摘出、直ちにそれを再移植した。吻合は左房壁、主肺動脈、気管の順に行ない、次いで体外循環を解除した。全部で31頭の成犬に対して実験行ったが、そのうち肺剥離操作中に死亡したり、再移植後体外循環からの離脱が不可能であったものは11頭であった。再移植後体外循環からの離脱が可能であった20頭の成績を述べると肺剥離操作に要した時間の平均は750分、両肺を摘出後再移植の吻合終了までに要した時間は平均59.2分、肺の阻血時間は平均87.3分であった。体外循環からの離脱後最長時間生存した犬の生存時間は3時間18分で、その他は体外循環からの離脱後7分〜1時間20分で死亡した。外因については、後縦隔、吻合部からの出血が大きな要因となったと思われるものが10頭、肺水腫5頭で、大部分が心拍出力の低下による血圧低下で、心拍出力の出ない眞の原因が不明なものが多かった。 実験の後半には手技上もまず完成したが、以上の如く術語最長時間はわずか3時間18分という満足すべき結果が得られなかった。その原因として一番大きなものは、本部における成犬が人工心肺下体外循環の実験に不適当である身でそれは他の研究者も一致した意見である。本研究者も本研究の成績から見て、今後本実験に成犬を利用することを断念せざるを得ないと思われる。そこで、将来この両肺一括移植実験を成功させるには霊長類を使用するのが最良の方と考えられた。
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