研究概要 |
ラットC6グリオーマ細胞株の姉妹染色分体交換(sister cbronatid exchange;SCE)に及ぼす抗癌剤ACNUの効果(培養細胞)を測定した研究(日本癌治療学会誌22(2):283,1987)では, 無処理C6細胞のSCEは7.3/細胞で, ACNU濃度1.5〜5.0μg/mlで濃度依存性にSCEの増加を認めた. SCE数の増加は, コロニー形成能試験によるACNUの殺細胞作用の評価と正の相関を示した. SCEにより, 低濃度域におけるACNUの作用が捉えられた. heterogeneousな細胞集団であるヒトグリオーマ組織から得た細胞については, 細胞周期時間にあわせた長期のBrdU作用時間, より均一な集団である樹立細胞株を用いた予備実験などを試みている. 正常細胞のSCEに対するACNUの作用を検討するため, 培養条件下でPHA(phytohenaglutinin)賦活した健常人リンパ球を用いた. (医学のあゆみ, 投稿中)対照としたリンパ球の誘発SCE頻度は7.6±0.2/細胞で, 試験菅内で投与した ACNUによりSCE数が増加した. ACNU濃度に対するSCE数の増加度はほぼ直線に回帰された. 統計学的に有意にSCE頻度の増加を検出できる最低ACNU濃度は0.6〜0.8μg/mlと推定された. 高濃度ACEUによるSCE検出は困難であり, これは薬剤によるリンパ球の細胞回転遅延などが原因と考えられた. さらに, ACNU投与後に同剤を含まない培養液で培養を続けることにより, ACNU投与により増加したSCE数の回復過程を観察した. 3または6μg/mlのACNU投与後に6時間の培養機関を置くことにより, 有無な誘発SCE数の回復傾向を示した. 臨床の場における検討として, 悪性グリオーマに対する化学療法剤としてACNU投与を受けている患者のリンパ球を経時的に採取し誘発SCEを測定した. 現在までの4症例はすべてACNU投与により, 投与前に較べて有意に高いSCEを示した. 症例を増やし, 詳細な分析を開始している. ACNU投与による正常細胞の傷害を検出する指標として, リンパ球誘発SCEが有用ではないかと予想している.
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