本研究では、化学療法剤に対する感受性を評価する指標として姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange:SCE)を取り上げ、グリオーマ患者の化学療法に頻用されるニトロソウレア剤ACNUを対象とし、グリオーマ細胞及びリンパ球を用いた研究を行った。無処理C_6ラットグリオーマ細胞のSCEは7.3/細胞で、ACNU濃度1.5〜5.0μg/mlで濃度依存性にSCEの増加を認めた。SCEの増加は、コロニー形成能試験による殺細胞効果とよく相関するが、SCEの方が軽微な変化まで捉えることができた。手術材料から得たヒトグリオーマのearly passage cultureを用いてACNU有効性のSCEによる評価を試みたが、遅い発育速度や細胞のheterogeneityのため困難であり、今後の課題として残された。PHA賦活健常人リンパ球のSCE頻度は7.6/細胞であり、ACNU投与(in vitro)によりSCEが直線的に増加した。(ACNU3.0μg/ml投与で35.2/細胞)。ACNU投与後培養液中に保つことによりSCEが減少した(傷害からの回復)。次いで、グリオーマと病理診断されACNU投与を受けている患者の末梢血リンパ球誘発SCEを測定し、ACNU静脈内投与後1日〜最長75日にわたってSCEの顕著な増加を認めたが、個人差も存在した(投与前6.3〜9.1/細胞、投与後17.0〜46.9/細胞)。ACNU投与後日数の少ない時点でのSCE数の方が、日数の多い時点より多い傾向を示した。ACNUの脳脊髄液腔投与ではSCEの軽度増加(11.7〜16.4/細胞)を示したが。放射線照射によるSCEの増加は認めなかった。以上、リンパ球SCEの測定により、ACNUによるリンパ球のDNA傷害が鋭敏に捉えられた。本研究により、ACNU投与による正常細胞傷害の一指標として、リンパ球誘発SCE数の測定が臨床的に有用と考えられる。個々の症例について、化学療法前にin vitroで行ったSCE試験の結果から、実際上の変化を予測できるかが今後の研究課題である。
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