研究概要 |
1.まず出生後き脳内細胞増殖活動を検討するため, 各年齢層のラットにbromodeoxyuridine(BrdU)を投与し, 脳内におけるBrdU陽性細胞(DNA合成期細胞)の分布を観察した. その結果, 成熟脳における細胞増殖は側脳室上衣下層では活発に続いている(BrdU標識率=7.5±1.5%)ものの, 灰白質(大脳皮質)ではほとんどみられず, 白質(脳梁)でごくわずか存在するのみであること(BrdU標識率=0.03±0.05%)が明らかなった. 2.このような成熟ラット大脳皮質に刺創を作製し, 周辺脳における細胞増殖活動を経時的に観察した. この際アストロサイトの同定にはglial fibrilary acidic pratein(GFAP)を用いた. その結果, 刺創周辺脳細胞における. DNA合成は外傷3日後に特に活発になり(4.9±2.2%), これに続いてアストロサイト数の増加がみられることが明らかとなった. 3.続いて以下の要領で脳梗塞巣周辺組織における細胞増殖活動を観察した. (1)まず砂ネズミの後交通動脈を閉塞し, 私どもの開発した14-バリン・オートラジオグラフィー法による局所蛋白合成障害, ならびに蛍光標識血漿法による微小循環障害を検討した結果, 本モデルでは血管閉塞側の海馬および視床でこれらが強く障害されるのに対し, その周辺では比較的保存され, またこれらの所見に個体間のバリエーションが少なく, 実験モデルとして適当であることが示された. (2)この様なモデルにおいて梗塞巣周辺脳における細胞増殖を観察した結果, アストロサイト数は梗塞後5日間にわたり増加したがとくに3日後に活発な細胞増殖をおこなうこと(BrdU標識率=11.9±5.9%)が明らかとなた. 4.近年アストロサイトの神経栄養因子あるいは軸索伸展誘導物質産生能が報告されており, 今回得られた知見は損傷能修復過程を理解する上できわめて重要なものであると考えられる.
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