静脈麻酔剤ペントバルビタールを用いネコによる動物実験を行った。人工呼吸下にバルビタールによってひきおこされる脳機能低下状態を脳内各部(大脳皮質、視床、中脳網様体)における高周波数帯域脳波の分析結果を中心に検討した。バルビタールは経静脈に分割投与して、総量として10mg、50mg、100mg、150mg、200mgを投与した。皮質脳血流測定は制御差温式組織血流計を用いた。 1.大脳皮質においては、バルビタール総量30mgまでは投与前コントロールに比しパワーの上昇を認め100mg投与以後低下を認めた。低投与量時のパワーの一過性上昇は脳波の速波化と一致した。この皮質におけるパワーの上昇はバルビタールによる直接賦活作用とは考えにくく、下記脳幹抑制による二次元的反応と考えられた。2.バルビタール投与時、定常状態においてはコントロールに比し段階的に脳血流の低下を認めた。すなわち、低投与量時においては脳波パワーと脳血流とは相関しなかった。3.視床、中脳網様体においては皮質で認められた低投与量時のパワーの上昇は認めず、容量依存的にパワーの低下を認めた。両者には強い負の相関関係が得られた。ただし視床、中脳網様体における薬剤に帯する反応は同一ではなく、中脳網様体においては150mgですでにローレンツ部分は消失し200mgでは平坦脳波に近いのに対し、視床では200mgにおいてなおローレンツ部分は残存しており、このことからバルビタールの主たる作用は中脳網様体すなわち脳幹賦活素の抑制作用にあることが示された。投与総量200mgにおいて視床においてのみパワーが残存していることは、脊髄からの上行系が関与していることは想像にかたくない。LD50が300〜350mg/kgであることからも今後さらに脊髄へ検討範囲を広げる必要があると考えられる。
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