人工関節置換術後の合併症のうち、最も重要なもののひとつとされている骨セメントと骨の間の「ゆるみ(loosening)」の原因を解明すべく調査した。調査方法として、前年度より分析してきた再置換時に採取された、骨と人工関節の間に介在する肉芽組織について、偏光顕微鏡を用いての分析、さらに電子顕微鏡を用いて微細構造を検討した。 一般にこの「ゆるみ」の際に出現する肉芽組織は人工関節側から、滑膜表層に類示した表層部、組織球および線維組織に富む中間層しさらに深部の線維層の3層に分けられるとされている。我々の研究によると、この中間層と線維層とはほとんど区別が不可能で、中間層に見られるマクロファージ系の細胞が広範囲に分布している事が分かった。さらにこの細胞を偏光顕微鏡で観察すると、特に異物巨細胞と考えられる細胞中には多量のHigh Density Polyethyleneと考えられる砕片が貧食されていた。 またこれらの細胞は電子顕微鏡による観察でも、胞体内に多数のライソゾームやvacuoleが見られ、活発な貧食と消化が行われているものと推測された。またこの多数の細胞内小器管を持つ細胞は、電子顕微鏡による免疫染色にてもHLA-DR、陽性がありマクロファージ由来の細胞であり、骨吸収ひいては人工関節の「ゆるみ」進展させているものと考えられた。
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