研究概要 |
本研究の目的は, 末梢神経腫瘍の良性腫瘍と悪性腫瘍を明確に区別できる微細構造上の特色を電顕計測学的に調べる事にある. 確定診断された26例の末梢神経腫瘍(6例の悪性神経鞘腫, 8例の神経鞘腫, 12例の神経線維腫)の電顕試料ブロックからできるだけ多くの越薄切片を作製した. これらの切片を電顕観察し, 2000倍で約2600枚の写真撮影を無作為に行なった. このネガを12000倍に引伸し, 約3000枚の大型印画紙に焼付け. 写真をもとに最初比較的に簡単な構造として孤立性線毛の出現頻度を各腫瘍群について調べた. その結果, 若干の知見を得た. 孤立性線毛は, 本来発生が予期されなかった組織, 器管の細胞に見られる構造でしばしば本腫瘍でも認められる. これらの線毛は, 気管や輸卵管の上皮組織のものと異なる微細構造を示した. その横断面は9+0型の線毛軸糸を有しsubfiler Aに本来あるべきdynein armが欠損していた. これは, 本腫瘍で見られる線毛は不動毛である事を示唆している. その発生率に関しては良性腫瘍のシュワン細胞と線維芽細胞では低いが, 神経線維腫に含まれるperineurial細胞では比較的高い出現頻度を示した. これに反し, 悪性腫瘍ではその出現頻度は高かった. この構造は, 悪性腫瘍, 胚, 幼若組織の如く旺盛な増殖組織でしばしば高頻度で見られ, 一方, 増殖活性がより小さい良性腫瘍では低頻度で観察されてきた. これらの結果は, 線毛が増殖組織で見られる特色の一つである事を示す. 本研究の結果から, 組織の増殖性の差が線毛の発生率に反映している事が推論できる. 以上のことから, この線毛頻度分析は, 悪性, 良性腫瘍を識別できる電顕計測学的な因子の一つである事が判った.
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