6人の健康男性被験者で笑気、ハロセン(H)、イソフルレン(I)、エンフルレン(E)、セボフルレン(S)、メトキシフルレン(M)の各々0.2MACの吸入による鎮痛作用(中浜式疼痛計による疼痛閾値の変化)と麻酔作用(パソコンで音反応時間を測定)の変化を調べた。笑気による疼痛閾値はコントロールや他の麻酔薬に比し有意に上昇した。MはHに比し有意に疼痛閾値を上昇させた。吸入前、吸入中の変化では、Hによる閾値の低下と笑気による上昇に有意差をみた。0.2MACのI、E、Sは疼痛閾値を変化させなかった。音反応時間はすべての吸入麻酔薬で延長した。Eによる反応時間の延長は、M、H、S、笑気より大きかった。この様に、麻酔薬により抑制を受ける機能が異なることから、閾痛刺激による反応であるMACは必ずしも正確な麻酔強度を反映していないと考えられた。また麻酔薬の鎮痛作用はMACの測定にあまり影響しないと考えられた。次に、笑気の鎮痛、麻酔作用に対する耐性形成の有無を6人の被験者で調べた。また笑気の作用に対するナロキソンの拮抗の有無についても調べた。100分間の笑気吸入中には鎮痛、麻酔作用共に耐性は生じなかった。また合計1.4mgのナロキソン投与では麻酔作用鎮痛作用共に笑気に対する拮抗は認められなかった。ヒトでは笑気の耐性は短時間のうちに画一的に生じるものではなく、またナロキソンは笑気に対してはオピエイトに対する様な拮抗作用を有さないと考えた。笑気吸入中止により音反応時間は速やかに回復したが、疼痛閾値の上昇は吸入中止30後も持続した。笑気の鎮痛作用は単純に脳内笑気分圧で規定されるものではなく、何等かの生化学的な影響を受けていると考えられた。
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