研究概要 |
本研究はショック初期に見られる自律神経一内分泌系の反応を調節、統合している脳内の物質をとらえることを目的とし、push-pullカニューレを脳内に挿入して還流し、還流液中の種々の物質がショックの進行とともにどのように変化するか測定したものである。2年間の研究期間において特に大きな成果の得られた研究は出血性ショック時における脳内のthyrotropin-releasing hormone(TRH)の変化であり、いくつかの論文を発表することができた。 TRHは脳内において内分泌系のみならず自律神経系の調節にも関与していることが知られるニューロペプチドであり、TRHが出血性ショック時の心血管系の中枢性調節に関与していることが本研究においてはじめて明らかになった(Brain Research,474,399ー402,1988)。本論文中で明らかにした点は下記の3点である。 1)出血性ショック(全血の30%の血液の急速脱血)直後、第四脳室中にTRHの遊離が増加するが、20分以内に元のレベルにもどる。 2)第四脳室にあらかじめ抗TRH血清を投与しておき遊離されたTRHの作用を阻害すると出血性ショック時の血圧の低下の程度が大きく長時間低血圧が持続する。 3)正常な動物に抗TRH血清を投与しても血圧、心拍数に有意な変化はない。以上のことから出血圧ショック時には脳内のTRHの遊離がふえ血圧の回復を早めていると推定される。現在第四脳室の遊離されたTRHの源を探るため、脳内部位をいくつか選んで同様の還流を行なっている。さらにこの変化が出血性ショックに特有のものかあるいは動物がストレスにさらされた時の一般的な反応であるかを探るため他のモデルにおいても同様の測定を試みている。
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