くも膜下出血患者では、しばしば心電図変化を伴うことが知られており各種不整脈から心筋梗塞様の変化も認められる。すなわち中枢の異常が何らかの機序で心に著しい影響を及ぼしているので、その中枢性不整脈の機序を解明する目的でまず家兎の脳産槽、かなわち視交叉槽または脚間槽にきわめて侵襲の少ない方法で薬液を注入する方法を開発し、1985年には循環制御誌および関西医科大学雑誌に発表し、さらに1989年にはStrokeに発表した。1987年には第34回日本麻酔学会総会において、家兎脳底槽に0.1%プロスタグランディンF_2αを0.3および0.5ml注入したときの心電図変化、すなわち除脈、上室性および心室性不整脈、心室性頻拍、ST低下、ST上昇、陰性T波などくも膜下出血患者と似た心電図変化が発生したことを報告し、さらに交叉熱電対の電極を頭頂部から脳底部付近まで挿入し、0.1%プロスタグランディンF_2α0.5mlを注入した直後の除脈が発生している時点には脳底部脳血流は減少しており、約20〜30秒後に脳低部脳血流が逆に増加傾向を示すと同時に不整脈が発生することを発表した。この結果は、プロスタグランディンF_2αの注入によって刺激(阻血刺激)されていた視床下部に血流が再開し、視床下部からの心刺激物質の放出または副腎からのエピネフリンの分泌増加などが推定される。交叉熱電対によって測定される脳血流量は、その増減を連続的に測定し得る利点がある反面、絶対値が測定出来ないという不利な点があった。そこで水素クリアランス式電極を交叉熱電対と反対側に刺入し、血流減少時、すなわち除脈発生時および脳血流がどれだけ減少したか、不整脈発生時にはどれだけ増加したか、第35回日本麻酔学会(1988年)で発表した。エーテル麻酔家免6例では平均80ml/100g/minであり減少は平均-20ml/100g/minであり増加は+5〜10ml/100g/minであった。
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