研究概要 |
ヒト精巣組織の加齢による特徴的な変化として精細管基低膜の肥厚がある. また, 特発性男子不妊症においても精細管壁及び基底膜の肥厚, 間質の増生が認められており, コラーゲンの増加が組織学的に示唆されている. 今回, ヒト精巣組織内のコラーゲンについての生化学的基礎的検討を行った. 方法は以下の通りである. 実験材料として, 未治療の前立線癌患者の治療目的で除睾した精巣組織を用いた. 摘出した精巣を-80°Cに凍結保存し, 組織の一部をミンスした後, ペプシン消化及び塩分別沈沈殿にてコラーゲンを抽出した. 次にSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法にてコラーゲンの型分類を行った. また, 組織の一部を凍結乾燥し, エドワーズらの方法に準じて, ヒドロキシプロリンの定量を行い, 乾燥重量あたりのコラーゲン量を概算した. 同様にして, コラーゲン抽出時のホモゲナイズ後の懸濁液中のコラーゲン量と, ペプシン処理後の抽出液中のコラーゲン量を測定し, ペプシン消化によるコラーゲン抽出率を求めた. さらに, 抽出時に残った沈潜をLaurentSの方法に従って, ブロムシアン開裂法によりコラーゲンを抽出し, 電気泳動用の試料とし, SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法を施行した. 結果:SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法によりヒト精巣組織内のコラーゲンには, タイプI, III, IV, V, VIの存在を認めた. またヒト精巣乾燥重量あたりのコラーゲン量は, 約20%存在し, 精巣組織内には, かなりのコラーゲンが含まれることが明らかになった. ペプシン消化による精巣組織のコラーゲン抽出率は, 肺や皮膚などの他臓器のコラーゲン抽出率と比較して非常に低く, 5-8%であった. 一方, ペプシン消化できなかった沈渣中には, コラーゲンタイプIとIII, とくにI型が多く含まれていた. このことより, ペプシン消化は, コラーゲン抽出法としては, とくに精巣のコラーゲン抽出は困難であることを示唆した.
|