研究概要 |
本年度は, 前立腺癌患者の予後に大きな影響を持つ因子として種々の血中マーカー, 原発巣のGleason scoreおよび前記マーカーに対する各々のモノクローナル抗体を用いた酵素抗体染色による染色性などを検索, これらと予後との相関を検討した. マーカーの検討では前立腺癌86例(未治療43例, 既治癌46例-うち制癌例28例, 再燃例18例)を他の前立腺疾患, 前立腺癌以外の泌尿器科癌など合計282例, 862検体を対象とし, 前立腺性酸フォスファターゼ(PAP), 2種類の抗原を使った前立腺特異抗原(PA), γ-セミノプロテイン(γ-Sm)を測定し, 予後の相関の強い諸背景因子と比較した. その結果, 前立腺癌の臨床病期に応じて各マーカーは高値となるが悪性度とは逆相関すること, 感度はPAが最も良いが(PA-2 81%)特異性はむしろPAPが最良で, 結局精度はPA-1があること, これら3種, 4個のマーカー間の相関係数は必ずしも高くなく, 0.38(PAP vs γ-Sm)〜0.67(PAP vs PA-1)であることが明らかとなった. また予後に最も影響を与えるのは内分泌療法前にこれらのマーカーが高値であったか否かよりも, 治療に反応して正常科するかどうかがより重要であることが分かった. いっぽう前立線癌組織のマーカーに対する酵素抗体染色では, 分化度の高いほど染色性は高くホルモン治療に良く反応し, 例えば未分化癌では染色される上皮細胞の比率は低くホルモン依存性も低かったが, 組織の染色性と血中マーカーの値は必ずしも相関しなかった. 当然ながら腫瘍細胞量が分化度(例えばGleason score)より大きな影響を持つためで, したがって治療前のマーカー値のみをもってホルモン治療反応の良否, ないしは予後の善悪を即断できない. 生検組織のGleason scoreおよびマーカー染色生, 治療に対するマーカーの推移が, 現在のところ最も臨床に有用な指標であると考えられる. 次年度は組織のP-21 glycoprotein,DNA flow cytometryなどを併施し他の予後因子との比較検討を行う予定である.
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