不妊病態モデルラットとして、10週齢のSprague-Dawley系雄性ラットにAdriamycin(ADR)0.3mg/ml/kgを週3回、7週間、計21回皮下注射し、組織学的、内分泌学的検討を行い、以下の如き結果を得た。1.摘出した精巣、副性器重量については、精巣重量のみ対照群に比較して有意の減少をみた。2.組織学的には、精細胞障害の程度をみる指標としてGerm cell数とSertoli cellの比(G/S比)を用いて検討した。各細胞におけるG/S比は精祖細胞で0.7(対照群2.7)、精母細胞0.5(4.4)、精子細胞1.1(10.6)といずれの精細胞においても対照群に比較して著明な減少を認めた。3.精細管壁の厚さは2.8μmと対照群の4.6μmに比較して有意の肥厚がみられた。4.血中ホルモン濃度に関しては、LH、testosterone(T)は有意の変動を示さなかったがTSHはADR投与により有意の上昇を示した。5.精細管内Tおよび細胞内でより活性を示す5α-dihydrotestosterone(DHT)濃度は対照群と比較して有意の変動は認められなかった。以上より、ADRによる造精機能障害は精祖細胞および精母細胞の分裂時におけるDNA合成を障害するのみであることが推察され、本研究に必要なホルモン依存性の不妊モデルラットとしては不適当であることが判明した。 そこで精巣におけるLeydig細胞を直接抑制するといわれているEthane Dimethanesulphonate(EDS)を用いて不妊モデルラットを作成した。さらにTのmicrocrytal suspensionを作成し、精巣内に直接注入し、組織学的、内分泌学的検討を現在行っているが、今までに判明したことは以下の如くである。1.EDS投与により、精細管は著明に萎縮し、さらに精細管内T濃度は著明に低下した。2.Tのmicrocrytal suspensionは手術操作による精巣への障害がなく、さらに精巣内にび慢性に分布することが判明した。今後はさらに詳細な検討を続ける予定である。
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