分化誘導による癌治療の試みとして、我々はヒト胚細胞性腫瘍の一つである胎児性癌培養株のinvitroでの分化誘導を行なった。 (1)まず、ヒト胚細胞性腫瘍由来の培養株9種類の個々の分化能を調べる目的で、ヌードマウスに移植し、出来た腫瘤を検討した。その結果、NEC14株(睾丸胎児性癌embryonal carcinoma(EC)由来)が腺、軟骨、trophoblastなどへ分化することが見い出された。 (2)そこで、分化誘導をおこす物質ろしてすでに他の系で知られているレチノール酸、DMSO、dbcAMP、プロゲステロン、HMBAがinvitroでこのNEC14株が扁平な分化型colonyを形成する効果を調べ、この株に対し最も強い分化誘導効果を示す薬剤として10^<-2>MのHMBAが選ばれた。 (3)分化の指標となる細胞表面抗原の変動としては、ヒトEC細胞抗原SSEA-3抗原が減少し、分化抗原であるSSEA-1、HLA-A、B、C抗原が増加してくることがFACSTer解析で明らかになった。 (4)更に、他の形質発現につき検討を加えたところ、分化誘導後は培養用シャーレへの接着性が亢進し、組織プラスミノーゲン活性化酵素が誘導されて来た。又、免疫組織染色よりサイトケラチン、デスミン、ビメンチンが確認された。 これと平行して、神経特異エノラーゼの胚細胞性腫瘍における診断的意義につき検討した。ヒト胚細胞性腫瘍培養株9種およびControl培養株16種につき、細胞抽出液および培養上清中の神経特異エノラーゼ(NSE)値を測定したところ、胚細胞性腫瘍中で神経系への分化能をもつ培養株(PA-1、TeraII)で非常に高いNSE値を示した。 そこで、実際の胚細胞性腫瘍患者の血清中におけるNSE値を測定したところ、Immature Teratoma8例中4例、Dysgerminoma6例中5例が正常の上限を越え高値を示した。それに反し良性の分化したTeratomaでは30例中2例がわずかに正常より高いNSE値を示したにすぎなかった。
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