今回の研究においては、婦人科癌の中でも、いまだに予後の悪い卵巣癌と正常絨毛ー胞状奇胎ー浸入奇胎ー絨毛癌という一連の悪性化の過程をへる絨毛性疾患において、癌遺伝子がどの様な動きをしているかについて特に遺伝子増幅現象を中心に解析を行った。 卵巣腫瘍に関しては、中間群を含む悪性腫瘍19例、良性腫瘍4例、絨毛性疾患に関しては、絨毛癌細胞株5例、正常絨毛2例、胞状奇胎2例、浸入奇胎2例、絨毛癌1例より各々DNAを抽出、12種の癌遺伝子を用い、サザンブロッティングにてDNAの構造異常を解析した。いずれの腫瘍においても癌遺伝子増幅は認められず、諸家の報告と併せ、これらの腫瘍の癌化、あるいは悪性度に、癌遺伝子増幅というメカニズムは深く関与していないであろう事が示唆された。 又、卵巣癌症例12例につきDNAを抽出し、NIH3T3細胞を用い、トランスフォーミング遺伝子の検出を試みたが、いずれの腫瘍においても、活性化された癌遺伝子は検出されなかった。 癌遺伝子の発現に関しては、これまでの種々の絨毛癌細胞株について多くの癌遺伝子の発現が報告されているが、今回の我々の検討にても同様の結果が得られた。ただ多数例の「正常絨毛ー胞状奇胎ー浸入奇胎ー絨毛癌」の摘出材料よりの癌遺伝子発現が未解明である為、これら一連の過程における癌遺伝子発現の癌化への関与は解明できていない。我々の研究の目標もここにあったが、残念ながら十分の臨床材料を得ることが出来ず、今後の課題としたい。
|