胎生体腔上皮由来のミュラー管上皮は、卵管、子宮体部、頸部と上部腟組織を形成し、それぞれの場所でciliaを有する卵管上皮、子宮内膜上皮、ムチン産生細胞の頸管上皮、腟扁平上皮に分化し、同じ胎生体腔上皮由来の卵巣表層細胞はinclusionされてミュラー管型上皮に分化してそれぞれの細胞形態を有する上皮性卵巣腫瘍を形成すると考えられている。こうした胎生体腔上皮由来の細胞がいかなる要因下にこのようなミュラー管型細胞分化を遂げるのかを検討し以下のような結果をえた。まず、ミュラー管の発達過程の検討では、胎生20週頃を境にして固有の分化の差が見られ始め、卵管のcilia、内膜の分泌像、頸管のムチン産生細胞の順序の分化表出が見られ、それぞれの部位での分化発現時期に差が見られることが判明した。摘出病理標本の詳細な検討から、胎生体腔上皮由来と考えられる卵巣表層細胞、腹膜などの組織は、ある条件下ではミュラー管上皮とそれに伴う間葉細胞がたどる分化と同じ分化を遂げる能力を有し、これらの組織はsecondary mullerian systemなる概念を形成することが強く示唆された。ミュラー管にきわめて関連が深いとされる腫瘍関連抗原CA125のさまざまな検討において、CA125はミュラー管では胎生期に序々に発現し、成人では常に存在することからミュラー管の分化過程に密接な関係を有する抗原であることが判明した。家兎卵巣表層細胞の培養系を用いたミュラー管型細胞分化誘導実験では、ミュラー管型細胞への分化を誘導出来なかったが、estradiolと漿液性卵巣癌腫瘍内容液には、これらの細胞を増殖させる作用があることが判明した。今回の検討では卵巣表層細胞をミュラー管型細胞へと分化誘導する因子そのものを同定することは出来なかったが、CA125はその分化に深く関連した物質であり、これを含めた分化誘導因子に関する研究は、将来的に卵巣癌の治療にも応用出来るものであり、更なる研究が必要であると考えられた。
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