昨年度までに胎盤中のEGF受容体が妊娠中増加し、EGF受容体の、messenger RNAもそれとパラレルに増加することを明らかにした。即ち受容体数のみでなく、その産生量も妊娠中増加していくことを明らかとしたのであるが、今までの文献上、胎盤中のEGF受容体量の変動について一致した見解が得られない理由の1つは、binding assay時EGF受容体が主に発現するtrophoblast cellに間質組織が混入するためtrophoblastそのもののEGF受容体量の変動について検討されていないことであった。そこで我々は、妊娠初期および末期の胎盤組織よりtrophoblastのみを単離し、そこでのEGF受容体の検討を行ない以下の結果を得た。1.単離trophoblast中のEGF受容体量は妊娠初期に比べ末期では約2.5倍に増加しており、この増加は全盤盤でみたEGF受容体量の増加とproportionalであった。2.解離定数については単離trophoblastを用いた場合も初期・末期で変動はみられず、又、これらの値は全胎盤を用いた場合とほぼ同一の値であった。従って我々の結果より、胎盤中のEGF受容体が妊娠の進行とともに増加することは明らかであり、このことはEGFがヒトの妊娠においてfeto-placental unitの発育に何らかの重要な働きを果たしている可能性を示唆するものである。以上の結果は1988年のJournal of Endocrinology and Metabolismに発表した。
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