研究概要 |
1.侵入奇胎患者尿中hCGの糖鎖構造:我々は既に胞状奇胎と絨毛癌の患者尿中に含まれるhCGのアスパラギン結合糖鎖措置を分析し, 胞状奇胎hCGの糖鎖構造が正常妊婦尿hCGの場合と全く変らないのに対して, 絨毛癌hCGには8種類もの異常糖鎖が含まれていることを見出した(Grann76, 752, 1985). かかる観点から, 臨床的に胞状奇胎と絨毛癌の中間的位置にある侵入奇胎hCGの糖鎖構造を検討した所, 次のような興味ある事実が判明した. 即ち, 侵入奇胎hCGのアスパラギン結合糖鎖には絨毛癌hCGで認められた8種類の異常糖鎖の内, 5種類までが含まれていることが判明した(Cancer Res.47, 5242, 1987). これら糖鎖の構造解析から, 異常糖鎖の生合成はN-アセチルグルコサミン転移酵素IVの異所発現に基づくものであることが判ったが, 侵入奇胎ではその基質特異性が保たれているのに対して, 絨毛癌ではそれが失われているものと推定された. 2.異常構造hCG検出法の開発:hCGをDTT還元後, SDS-PAGEで泳動すると, α, β subunit以外に抗hCGβC末端ペプチド(CTP)抗体に親和性を有する物質(CTP')が遊離されることを見出した(Gann, 78, 833, 1987). さらに種々の特異的抗体を用いたWestern blotや架橋試薬を用いたcross-linkingによる検討の結果, CTP'はβ subunitが切断されて生じるものであることが判明した. このCTP'は侵入奇胎と絨毛癌患者の尿中hCGにおいて極めて顕著に観察され, しかもその検出法も簡便であることから, 絨毛性疾患の診断, 特に胞状奇胎の続発性変化の予知への臨床応用が期待される. このようなβ subunitの断片化現象は我々が初めて見出したものであるが, 現在その原因を探るためにその切断部位の決定すべく, アミノ酸配列を分析中である.
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