研究概要 |
本年度の研究実施計画は, (1)子宮内膜症および他の不妊症患者から腹水を得(2)その腹水中の卵管采卵捕獲抑制因子(OCI)を定量し, さらに(3)OCIを精製・純化し, (4)OCIに対するモノクロン抗体を作製することであった. 課題(1), (2)についてはほぼ満足すべき成績が得られた. すなわち74例の不妊症患者(子宮内膜症:63例, その他:11例)に腹腔鏡検査を施行し腹水を得た. 腹水中OCI活性は子宮内膜症腹水で明らかに高く, また月経周期によるOCI活性の変動も認められた. ダナゾールは子宮内膜症治療薬であり妊孕性を亢進せしめることが知られている. ダナゾール治療後の子宮内膜症腹水の中にはOCI活性が明らかに低下しているものも認められた. しかし, 課題(3), (4)に関する実験は不成功であった. すなわち, OCI活性の強い子宮内膜症腹水をゲル濾過により純化しようと試みた. しかし, 全ての濾液中にOCI活性は全く認められなかった. これはOCIがゲルに吸着されたか, あるいは操作によりOCIが失活した可能性を示唆している. 純化が不成功であったためOCIに対するモノクロン抗体は作製出来なかった. これらの課題については実験方法を変えて次年度以降に再度挑戦する予定である. ところで, OCIによる卵捕獲抑制機序を追及する目的で走査電顕実験を行った. 種々の腹水とinvitroで反応せしめたハムスター卵管采を走査電顕で観察した. 子宮内膜症腹水との反応で卵捕獲能を失った卵管采は膜状構築物で被覆され線毛細胞が見えなかった. コントロール腹水を用いた場合にはこのような膜状構築物は認められなかった. 逆行性卵管フラッシュにより膜状構築物を除去すると卵管采の卵捕獲能が回復した. したがって, OCIによる卵捕獲抑制は卵管采と卵丘との接触が膜状構築物によって阻害されることによるものと思われた. これらの成績を第6回国際ヒト生殖学会で発表し大きな反響を呼んだ.
|