昭和62年度までに子宮内膜症腹水中卵管采卵捕獲抑制因子(OCI)に関して以下のことを明らかにした。 (1)子宮内膜症腹水中にはOCIが存在する。 (2)このOCIは分子量100K.Daltons以上の大分子物質であり、熱に不安定である。 子宮内膜症腹水に浸漬した卵管采表面には膜状構築物が沈着し(OCI関連膜状沈着物)、これによる卵管采線毛と卵丘との接触不全がOCIによる卵捕獲抑制の機序であると考えられる。以上の成績をもとに昭和63年度には以下の実験を行った。 (1)子宮内膜症腹水に浸漬し卵捕獲能を喪失せしめた卵管を逆行性にflushし、OCI関連膜状沈着物を除去した。これを用いて卵捕獲実験を行なったところ卵捕獲能の回復が認められた。 (2)子宮内膜症婦人において腹腔鏡検査時に逆行性に卵管をflushすると、balloon formationが認められ、in vitro実験の際と同様にOCI関連膜状沈着物が確認できた。 (3)Danazolは子宮内膜症治療に用いると妊孕性の亢進をもたらす。そこで、Danazol治療中の腹水を用いて卵捕獲実験を行なったところ、これにおけるOCI活性の低下が認められた。さらに、まだ実験途中のため結論はできないが以下の成績が得られた。 (4)子宮内膜症腹水をゲル濾過により分画し、各分画を用いてOCI活性を測定したところ、いずれの分画にもOCI活性は検出できなかった。しかし、これらの分画を再度混合したrecombinant腹水ではOCI活性が検出された。したがって、OCIはあるいは複数の物質であり、これらの相互作用によってOCI関連膜状沈着物が形成されるのかも知れない。また、(5)EDTAを子宮喜井膜症腹水に添加してもOCI活性はあまり影響されたかった。この事実は、これら複数の物質の重合反応にCa^<++>はあまり関与していないことを示唆しているのかも知れない。実験は現在も進行中であり、近くOCIのcharacterizationに関してより明確な成績が期待できる。
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