研究概要 |
I.子宮頸癌組織における癌遺伝子の発現の研究:ras癌遺伝子産物であるp21およびerbB癌遺伝子産物であるEGFRに対するモノクローナル抗体を用いて子宮頸癌41例に対して酵素抗体法を行い, 両癌遺伝子の発現の有無をみた. p21の発現は頸癌I期17例には1例もみられず, II期20例中6例(30%)に陽性であった. II期のリンパ節転移陽性例6例中4例にこのp21が陽性であった. 一方, EGFRについてはI期では陽性例がなく, II期20例中3例(15%)に陽性所見がみられた. 頸部腺癌4例はいずれについても陰性であった. 以上の結果から, 頸癌におけるp21,EGFRの発現は癌の進展とともに陽性化する傾向があり, しかも癌細胞の生物学的悪性度を反映する可能性が示唆された. II.ヒトパピローマウィルス(HPV)の発癌能力に関する研究:ハムスター胎児細胞(SHE)およびこの細胞に単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)DNA断片を導入することによって得られた細胞株(AE)の両細胞にHPV-16およびHPV-18のDNAを燐酸カルシウム沈澱法により導入し, フォーカス形成を観察した. いずれの細胞にもフォーカス形成がみられたが, SHE細胞のフォーカスから得られた細胞には造腫瘍性がなかった. 一方, AE細胞のフォーカスから得られた細胞は高率にヌードマウスに腫瘍を形成した. 造腫瘍性を獲得した細胞内にはSouthern Blot Hybridization法によってHPV-DNAの存在が証明されたが, 中にはこのDNAが証明できない細胞もあった. 以上の結果から, HPV-16およびHPV-18はいずれも単独では発癌能力がないが, HSV-2との協同作用で発癌が可能であること, また, 発癌した細胞内にHPV-DNAは必ずしも存在しないこと, すなわち, HPVによる発癌機構が"hit and run"理論に基づく可能性が示唆された.
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