研究概要 |
I.ヒトパピロ-マウイルス(HPV)によるin vitro発癌実験により以下の事が示された。(1)HPV16型および18型DNAは初代培養細胞を不死化させる能力がある。(2)HPV16型および18型DNAは単純ヘルペスウイルス2型DNAの導入および継代操作といったcofactorとの協同作用のもとに初代培養細胞を腫瘍細胞へ転換しうる。(3)HPV18型DNAによる癌化は“hit and run"機構に基づく。(4)HPV6/11型と16/18型との間にその発癌能力に差が認められた。(5)HPV16型による癌化細胞においてc-myc遺伝子の増幅および過剰発現が観察された。一方HPV18型による癌化細胞ではc-mycの増幅は認められなかったが、過剰発現が認められた。 II.子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)および浸潤癌におけるHPV DNAの証明と癌遺伝子発現を検討し、以下の結果を得た。(1)In situ hybridization法によりHPV DNAはCIN病変の約70%に検出された。中でもCIN gradIIで最も高い陽性率(91%)を示し、CINIIIでは低下する傾向がみられた(56%)。(2)パラフィン包埋標本における免疫組織化学的検査による癌遺伝子の検索では、浸潤癌組織においてのみ、少数例にc-myc蛋白,ras p21,EGFRの発現がみられた。(3)Southern blot法によって、HPV DNAは浸潤癌の約46%に認められた。うち、HPV16型および18型陽性例は全体の29%であった。ところがPCR法の併用によって、HPV16型および18型の陽性率は58%に上昇した。このことは、癌組織を構成する癌細胞の中にHPV DNAを持たない細胞が出現していることを示唆している。(4)Northern blot法によると子宮頸癌の約30%にc-myc mRNAの過剰発現がみられた。一方、c-mycの増幅はこの中の1例にみられたのみである。
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