本年度は半規管から前庭神経節に及ぶ求心線維の前庭神経節内における分布状態、加えて受容器間連絡線進の存在の解剖学的証明を目的として研究を行なった。成熟ウシがエルの口唇を麻酔下に開放し、内耳を露出、膜迷路を破ることなく外側半規管膨大部神経を切断し断端部にHRPを注入した。この後6、12、24時間生存させて全迷路を摘出し、前庭神経節から膨大部神栽断端までHRPによる発色を光顕的に検索し、受容器より神経節に到る神経走行と神経節内における分布状態を追求した。 結果:末梢膨大部神経より前庭神経幹に亘っての神経走行については明確に同定することはできなかった。この理由として、生存状態動物の極めて微細な神経束に単独に、かつ確実にHRPを注入することが困難であり、HRPがある程度浸透して他の部から軸索内に入った事が挙げられる。外側半規管からの線維の神経幹に至るある程度の神経路の部位的確認は得られた。一方、神経節内における神経細胞体についてはHRPによる発色が見出された。しかしその数は少数であり、全ての支配神経細胞が見出されたとは考え難い結果であった。以上のように不充分な成果ではあるが、全迷路をまず取り出し、フロッグリンゲル液内で各膨大部神経を単一に微細がウス管で吸引、これにHRPをイオントフォレ-ゼで注入すればより緻密な神経走行、神経節内における支配神経細胞のマッピング、加えて受容器間連絡線維の解剖学的証明が可能と考えられる、今後、引き続いて追加研究を行ってゆく予定である。
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