研究概要 |
前年度までは実験動物モルモットに1〜20H_z, 120-163dBSPLの低周波音を1時間負荷し, 主として蝸牛の形態的変化について走査型電子顕微鏡により検討を加えてきた. その結果20H_2の163dBの負荷で, プライエル耳介反射の永続的消失とともに蝸牛の, 特に第4回転のラセン器に外有毛細胞の変性消失, 感覚毛の変形, 蓋膜の辺縁部に球状物質の出現などが観察された. 10H_2の162dBおよび20H_2の14dBの負荷では耳介反射は一時的に減退消失する動物も存在したが, 蝸牛ラセン器の表面微細形態には特に異常を認めなかった. 従って, 20H_2以下の低周波音に関して全体的にみると140dB以下の低周波音ならばモルモットの聴器には何ら影響を与えず, 20H_2の163dB以上の周波音では蝸牛の, 特に第4回転のラセン器に恒久的な形態的変化を惹起させうることが判明した. しかし, これらの観察は蝸牛ラセン器の表面微細形態のみから行なっており, 蝸牛のそのほかの膜迷路については検討していなかった. そこで本年度は蝸牛の切片標本を作製し, 前年度と同じ実験条件下で蝸牛膜迷路を, その全体について検討を加えた. その結果ラセン器の形態的変化は走査型電子顕微鏡で観察された所見とほぼ同じであった. しかし, ラセン器以外ではライスネル膜の破綻はなく, かつ血管条やラセン靭帯にも異常を認めなかった. 鼓膜, 中耳腔, 耳小骨連鎖, アグミ前庭関節, 蝸牛窓膜にも異常は認められなかった. 従って, 低周波音20Hzの163dBを負荷した場合のみに蝸牛の, 特に第4回転のラセン器に形態的変化を惹起させるが, そのほかの組織には異常をおこさせないことが確認された.
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