昭和62年度はモルモットを用いて、1〜20Hz、120〜160dBSPLの低周波音を1時間負荷し、主として蝸牛ラセン器の形態的変化を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果20Hzの160dBSPLでは蝸牛第4回転の外有毛細胞の変性消失ならびに蓋膜下面から辺縁部にかけてglobus formationが観察された。ラットでも全く同じ条件下では第3回転の外有毛細胞の変性消失およびダイチルス細胞表面の膨化像が認められた。従って、これらの動物の低周波音によるラセン器の形態的変化はいずぃさの動物でも蝸牛の最頂回転のラセン器に認められることが判明した。昭和63年度では実際に公害問題となっている低周波音(0〜125Hz、オールパス85dB)をラットに2年間負荷し、蝸牛ラセン器に及ぼす影響を走査型電子顕微鏡を用いて形態的に検討した。その結果低周波音暴露開始後1年以内では暴露および対照動物ともにラセン器具では形態的に全く異常を認めず、正常の形態を保持していた。実験開始後1年2、3カ月を過ぎると暴露および対照動物ともに第3回転の一部の外有毛細胞に変性消失が認められるようになった。外有毛細胞の消失は散在的であったが、内有毛細胞およびダイテルス細胞などの支持細胞には全く異常は認められなかった。1年5〜7カ月経過すると外有毛細胞の消失率は暴露および対照動物ともにほぼ同じく高度となり、第3回転なは約42%の消失がみられた。さらに1年8カ月から2年までの暴露および対照動物ではともにほぼ同様な消失率を示した。蝸牛第3回転の外有毛細胞の消失率は約67%であった。このように暴露および対照動物ともに有毛細胞がほぼ同様な消失率を示したことは今回負荷した程度の低周波音では蝸牛ラセン器には全く影響を与えていないと結論し得た。暴露および対照動物での有毛細胞の消失は老化現象によるものと推測した。
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