下咽頭癌未治療症例について、術前生檢材料を細切し、BrDU加PBSにインクベートしてS期細胞に取り込ませてから、アルコール固定、パラフィン切片を作成し、連続切片の1をHE染色、2を抗BrDUモノクローナル抗体ABC法により免疫組織染色として比較檢討し、S期細胞の標識率(Labelling Index;SLI)および分布様式(Distribution Pattern;SDP)について調べ、組織分化度との関係、増殖動態につき檢討した。さらに手術時摘出標本を大切片としてHE染色し、粘膜下浸潤の程度を顯微鏡下に計測し、これとSLIとの関係について檢討した。 1.下咽頭癌のS期細胞標識率(SLI) 8例について檢討したが、そのうち5例の結果を得た。夫々33、28、26、24、18であった。高分化癌3例は28、24、18で、中等度分化癌では33、26であった。前年度症例とのまとめでは中等度分化癌で高い値を示す傾向が認められた。 2.下咽頭癌のS期細胞分布様式(SDP) 癌胞巣の周辺に多く認められ、中央付近にはほとんど認められなかった。特に角化巣には全く認められなかった。これらの結果は、胞巣の中心へ向う分化の方向をよく示していた。粘膜病巣では基底層から表層に至る各層に平等に分布し、基底層および傍基底層のみにわずかに認められる非癌症例との鑑別にも有効であった。 3.下咽頭癌粘膜下浸潤度との関係 SLIの高値症例で粘膜下浸潤度も大きかった。またSDPに規則性を認めない症例で粘膜下浸潤度も大きい傾向が認められた。
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