喉頭における基本周波数の調節は、輪状甲状筋の輪状甲状関節の回転作用ばかりではなく、多くの喉頭筋の協調的活動によってもたらされる。本研究では下記の筋からの筋電信号を解析して多様な基本周波数 (FO) 調節機構を推定し、FO制御の生理学的モデルを考案した。 【○!1】輪状甲状筋の直部と斜部:これら2つの部位からの信号はともにFOと正の相関を示したが、直部は母音ごとに異る傾向を示し、一方斜部は常にFOと高いい相関を示した。直部の力の作用点は回転中心より遠く、調音に伴う急激な声帯張力の上昇をもたらすことができるため、調音に伴う変動を示したと考えられる。斜部のの力の作用点は回転中心に近く、大きな回転力は発生しないが、輪状甲状軟骨間の相互の偏位をもたらす可能性があり、声帯張力を広範囲に調節することができると考えられる。 【○!2】側輪状披裂筋:この筋の活動はFOの低い母音〓a〓で低くかつばらつきが小さく、FOの高い母音〓i〓で非常に高いFOとの相関を示した。この筋は他の内転筋とともに声帯突起を過内転させることにより、振動の有効長を短縮させて、FOを上昇させる機能をもつと考えられる。 【○!3】輪状咽頭筋:この食道入口部の括約筋はFOと高い負の相関を示した。筋付着部は輪状軟骨の回転中心に近接しており回転力は弱い。しかし、筋の収縮に伴って筋腹の膨隆がおこり、さらに喉頭の下降が生じると、輪状軟骨後板はこの膨隆に沿って回転し、声帯が短縮されると考えられる。 これらより、次の様なFO制御モデルを推定した。FO上昇は輪状甲状筋の声帯伸張作用及び内転筋による振動長短縮作用によりもたらされる。FO下降は喉頭の下降と輪状咽頭筋の協同作用による声帯長短縮の効果によりもたらされる。
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