62年度はニオイ刺激に対する大脳誘発反応を正常者から記録したが、全例において記録されなかった。このことは他覚的嗅覚検査として臨床応用するにあたってさらに検討が必要である。よって当該年度は、このニオイ刺激に対する誘発反応の背景にある脳波そのものの変動に着目して研究を進めた。 嗅覚正常者10名を対象とし、刺激はT&TオルファクトメータのB4(バラの香り)とE5(糞の香り)を用いた。頭皮上16か所より無刺激時(安静閉眼覚醒時)とニオイ刺激時の脳波を50秒間記録し、これら脳波をFFT処理してδ波(2ー3.5Hz)、θ波(4ー7.5Hz)、α_1波(8ー9.5Hz)、α_2波(10ー12.5Hz)、β_1波(13ー17.5Hz)の各周波数帯域別の平均パワーを求めた。頭皮上16か所の値から補間関数を用いて二次元脳電図を作製し、さらに無刺激状態とニオイ刺激状態の脳電図の変化をt-検定によるSPM(significance probability mapping)を用いて検討した。ニオイ刺激中の各帯域別の脳波の空間的変化はSPMによって有意な変化のある部位と変化のない部位が観察された。臭素B4で刺激した時は無刺激時に比較してδ帯域の後頭部、θ帯域の前頭部にパワーの減少、α_2帯域の前頭部・中心部にパワーの増大が観察された。α_1帯域、β_1帯域には変化は認められなかった。E5で刺激した時はα_1帯域の後頭部・頭頂部にパワーの減少、α_2帯域の前頭部にパワーの増大が観察された。δ帯域、θ帯域、β_1帯域には変化は認められなかった。これらの後頭部で観察されたα_1成分の減少やδ・θの徐波成分の減少は、刺激に対する被検者の意識レベルの上昇を現したものと推測された。これらの脳波変動がニオイ刺激による特異的なものとすれば、前年度の大脳誘発反応の成績とあわせて他覚的嗅覚検査として臨床応用ができる可能性があり、現在ニオイの濃度および再現性について検討中である。
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