62年度から63年度までの当該研究の成果は以下の3点である。 1.ニオイ刺激制御装置の開発 ニオイ刺激を用いて頭皮上より大脳誘発反応を記録するために、ニオイ刺激制御装置が試作された。特徴は1)鼻腔入口部に設置した温度センサーで被検者の呼吸を電気信号に変換し、吸気相に同期して臭素を送出する電磁弁を開閉させる。2)刺激間隔は嗅覚の疲労や慣れを防止するために1から9呼吸までの任意の呼吸毎に刺激することが可能。3)刺激時間は最大2秒まで、また刺激を与えるタイミングは被検者に応質て設定可能。 2.嗅刺激による正常者の大脳誘発反応 1)基準電極部位を頭部外平衡型としたとき、正常者26名のうち84.6%に反応が認められた。2)反応の頂点潜時が700msecに存在するものの、また頂点潜時が300msecに存在するもの、さらに両者が存在するものの3つのタイプに分類された。3)嗅覚性大脳誘発反応の頭皮上体位分布・潜時分布を作成し、中心部や頭頂部で高電位となり、潜時は後頭部にいくに従い延長する傾向にあった。また、嗅覚脱失者では反応は記録されなかった。将来、他覚的嗅覚検査と応用する場合には正常者すべてに記録されなかった原因の究明および種々のタイプが存在することの生理学的意義について検討する必要がある。 3.ニオイ刺激による脳波変動の検討 嗅覚性大脳誘発反応の背景となる脳波変動をSPM(significance probability mapping)を用いて観察した。その結果、ニオイ刺激によってα_1波やδ波、θ波の減少が後頭部で観察され、また前頭部でα_2波の増大が認められた。これは刺激に対する被検者の意識レベルの上昇を示唆していること考えられた。
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