歯周ポケット上皮の生物学的特性について、酸素抗体法、電子顕微鏡、トレーサー法などを用いて検索した。ラットの上顎第1および第2臼歯の間にゴムを挿入することによって実験的歯周ポケットを形成した。抗ケラチン抗体を用いた酵素抗体法では、ポケット上皮は陽性を示したものの、付着上皮は陰性であった。ポケット上皮および付着上皮の外側基底板は抗ラミニン抗体に対して陽性反応を示した。電子顕微鏡による観察では、ポケット上皮は多角形を呈し、細胞の中央に大きな核が存在していた。細胞小器官の発達は悪く、粗面小胞体やゴルジ装置などはほとんど観察されず、わずかにトノフィラメントの束が観察されるにすぎなかった。またポケット形成は、上皮細胞が歯の表面から剥離するのではなく、細胞と細胞の結合が破壊されることによって起ると考えられた。ペルオキシダーゼやランタンを用いたトレーサー実験では、ポケット底部を構成する上皮細胞の間をトレーサー通過して歯周ポケット内へ出ていることが確認された。電子顕微鏡による観察結果からも、ポケット上皮は物質を容易に通過させうる構造であることが明らかとなった。またポケット上皮直下の結合織中には多数の毛細血管が存在しており、正常付着上皮とほぼ同様の分布状態であった。これに対し、長い付着上皮の直下にはほとんど血管はみとめられなかった。以上の結果から (1) ポケット上皮は未分化な角化細胞であること、 (2) ポケットうえかわは物質を容易に通過させうる構造を有し、ここには歯肉溝 (ポケット) 滲出液による自浄作用が存在すること、 (3) 付着上皮とポケット上皮の鑑別のためにラミニンの存在を調べることはきわめて有効であること、などが示唆された。
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