本年度はフッ化ナトリウム(NaF)投与による象牙芽細胞および象牙質の変化を主として検索した。 1.象牙芽細胞の変化 NaF投与初期から粗面小胞体の膨化や空胞の形成が見られ、その後、自食胞やゴルジ空胞の増加、細胞突起部に分必顆粒の異常集積などが見られる。これらの変化は投与12時間後にもっとも大となるが、投与24時間後にはほとんど正常に復している。また細胞極性の異常や、細胞壊死像など大きな異常は見られない。 2.象牙質の変化 細胞遠心端に接する予成象牙質には、投与初期より多量の無定形物質が出現し、そこにはルテニウムレッド陽性物質(酸性ムコ多糖体)が多量に含まれている。また正規のコラーゲン線維はほとんど見られず、長さ約320nmで左右対称性の多数のバンド構造を持っ分節状コラーゲンが見られるようになる。この分節状コラーゲンは経時的に増加し、投与6時間後には約160nmの周期構造を持っ長周期コラーゲン線維も出現する。これら異常コラーゲンの分子相互の配列は、正規のコラーゲン線維と異なり、互いに逆向きに重なったコラーゲン分子が、その末端を揃えて配列し横に広がったもの、あるいは、同様に逆向きに重なったコラーゲン分子が約1/2ずれて配列し、縦に長くつながったものと思われる。これらの異常コラーゲンは、石灰化前線に達すると結晶の沈着を受け石灰化する。象牙質中で石灰化した異常コラーゲンを脱灰切片で観察すると、細い線維状の構造が見られ、コラーゲン分子の結合が弛緩しているように見える。また象牙質には高石灰化層と低石灰化層が見られ、高石灰化層では結晶密度の増加が加られたが、低石灰化層では結晶密度は小さく、酸性ムコ多糖体の分布異常が一部で見られた。
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