連続培養装置を用いて高度嫌気・酸性環境におけるStrepto-coccus mutansJC2の増殖と酸産生について調べた。 1.pH7.0で増殖した場合に比べて、pH5、5では同じ量のダルコースが消費されるていにもかかわらず増殖は減少した。このことは酸性環境では増殖に対するグルコースの利用効率が低いことを示している。 2.高度嫌気、グルコース制限条件でpH7.0で増殖するとき酢酸とギ酸が産生されたが、pH5、5では主として乳酸であった。このことは酸性環境では産生される酸の総量が少なくなることを示す(グルコース1分子から中性pHで酢酸1分子とギ酸2分子、酸性で乳酸2分子が作られる)、すなわち酸性環境における一種の適応現象と考えられる。 3.さらにこの酸性環境における乳酸産生の増加がどのような機構によって起こるのかを調べた。菌体内解糖中間体濃度の測定結果から、pH5、5になるとこれらの中間体濃度が変化して乳酸脱水素酸素活性を増加させ、ピルビン酸-ギ酸リアーゼ活性を低下させて起こるものではないことが分かった。 4.ピルビン酸-ギ酸リアーゼの至適pHは薬7.5、乳酸脱水素酵素の至適pHは約6であることから培養pHが中性のときはピルビン酸-ギ酸リアーゼが主に働いて酢酸、ギ酸が作られ、培養pHが酸性のときは菌体内のpHも酸性になるので乳酸脱水素酵素が主に働いて乳酸が作られるものと考えられた。 5.このような培養pH変化による産生酸の種類の変化は単なる酵素の活性調節によるものか、酵素量の変化によるものなのか、また、この現象は他の連鎖球菌にもみられるものかについて検討中である。
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