褐色細胞腫細胞PC12を神経成長因子(NGF)により交感神経細胞様細胞へと分化誘導するとテトラヒドロビオプテリン(BPH_4)量が一過的に上昇する。このNGFの作用の機構と生理的意義について検討し以下の成果を得た。 1.作用機構:(1)NGFのBPH_4増加作用はRNA合成阻害剤、蛋白質合成阻害剤によって抑制されたことから、蛋白質合成に依存していること。(2)BPH_4生合成系における調節酵素と考えられるGTP cyclohydrolase(GTPCH)に対するNGFの影響を調べた。GTPCH活性もNGFにより一過的に上昇した。NGF濃度依存性やNGF効果のタイムコ-スの実験結果、およびNGFのGTPCH活性増加作用もRNA合成阻害剤、蛋白質合成阻害剤で抑制されたことなどから、NGFによるBPH_4増加作用はGTPCHの合成誘導(遺伝子発現)を介して起きることが強く示唆された。(3)プロテインキナ-ゼ(PK)阻害剤、Hー7、Hー8は高濃度である程度NGFの作用を阻害するが各種PKのK_1値付近の濃度では阻害しないことから、蛋白質リン酸化がNGFによるGTPCH活性・BPH_4増加に直接は関与していないと考えられる。(4)これらのNGFの作用におけるcAMPの介在について調べるためdibutyryl cAMP(dBcAMP)の効果について検討した。dBcAMPもGTPCH活性、BPH_4レベルを増加させたが、その作用機構はNGFの場合とは異なることを示唆する結果を得た。 2.BPH_4上昇の生理的意義について検討するためプテリンの蛋白質リン酸化に対する影響を調べた。NGFは核内蛋白質、SMPのリン酸化を促進するが、BPH_4のアナログ、tetrahydro-6-methylpterinはこのSMPリン酸化促進効果を阻害した。BPH_4の上昇が一過的であることともあわせ、BPH_4が細胞分化の際の調節因子として働いている可能性が考えられるが、この点に関してはさらに研究が必要である。
|