研究概要 |
フッ化ナトリウム(NaF)は培養ヒト二倍体細胞に染色体異常やDNA傷害を誘起する(F.Tsutsui et al, Mutat.Res, 139:193-198, 1984). また培養シリアン・ハムスター胎児細胞に発癌性のマーカーになる形態形質転換や悪性転換を誘導する(T.Tsutsui et al, Cancer Res, 44:938-941, 1984) 本年度はNaFの染色体異常や遺伝子傷害能のメカニズムを探る目的で, NaFの染色体異常誘導にDNA複製が関与しているかどうか調べた. この実験のためヒト二倍体細胞を既法(T.Tsutsui et al, J.Cell.physiol, 120.219-224, 1984)に従って同調培養した. 次にS期(8〜9時間)を3時間ずつ3期に分割し, 各期にNaFを作用させ, 細胞生存率と染色体異常の頻度を調べた. その結果以下のことがわかった. 1.NaFによる細胞毒性(細胞生存率より決定)はS期の初期で最も強くあらわれ, 次いでS期中期, S期後期, G2期の順に弱くなった. Go期ではほとんど毒性があらわれなかった. 2.染色体異常誘導能については3回実験を行なった. その結果S期中期に最も高頻度に異常が出現し, S期初期や後期にはそれより低下する傾向にあった. 結論はまだ得られていない. NaFの細胞毒性や染色体異常誘導能は作用時間と作用濃度の積でほぼ一定である(T.Tsutsui et al, Mutat Res, 139:193-198, 1984)ことから, 今後濃度や作用時間を変動させて詳細に検討する必要がある.
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